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物忘れ・認知症

その物忘れは、
忘れっぽいだけでしょうか?

普段の生活でふと物忘れを自覚することがあると思います。
朝食べたものが思い出せない、テレビ俳優の名前が出てこない、買う予定のものを1つ忘れてしまった…等々、これらは健忘と言って、誰しもが経験することで多くの場合病的なものではありません。
一方で病的な物忘れというのは認知症の一症状で、健忘とは本質的に異なります。
認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症は物忘れを主症状としますが、特に最近の出来事を覚えるのが難しくなります。
それは記憶を保持する海馬という脳の構造物が萎縮するためと考えられています。

目次[▼表示]

このような場合は要注意

  • 物忘れを自覚していない、言われても思い出せない
  • 旅行したことや家族のイベントの思い出が、すっぽり抜け落ちている
  • 日付の感覚がなくなってきた
  • 同じものを毎日買ってきてしまう
  • お金の管理が出来ない、薬の服薬が出来ない
  • 物忘れ以外にしゃべりにくさ、手足の麻痺がある
  • 以前に比べて怒りっぽくなった
  • 家の中にいないはずの人が見えるなどの幻視がある

認知症は年齢と共に増えていきます

日本では人口のうち65歳以上の占める割合が30%近くに上り、超高齢社会となっています。
65歳以上の方のうち15%ほどが認知症と言われており、現在の罹患数は600万人程度と推計されています。
認知症は年齢と共に増えるため、60代での有病率は2-3%ですが、80代では30-40%が、90代以上ではおよそ半分の方が発症すると考えられています。
それでは認知症とはどのような状態でしょうか?
いくつかの診断基準がありますが、『正常に発達した記憶・知識・言語・実行能力・感情・人格などの機能が、後天的な疾患によって徐々に低下し、日常生活や社会生活を送るのが難しくなった状態』と考えられています。

認知症で見られる症状

「認知症」の症状は、中核症状と言われる認知機能低下そのものの症状と、周辺症状と言われる行動・心理に関わる症状に分けられます。

 

中核症状

①記憶障害

記憶はそれを覚えている期間によって、瞬間的な即時記憶、数分から数か月までの近時記憶、それ以降の遠隔記憶に分けられます。
また、内容によっては出来事の記憶であるエピソード記憶、言葉の意味や一般的な知識・常識の意味記憶、自転車に乗る・泳ぐなど体が覚えている手続き記憶があります。

②見当識障害

今日の日付、今いる場所、周囲に誰がいるのかといった、自分のいる状況を把握する能力見当識といいますが、それらがわからなくなることを見当識障害と言います。
見当識障害もアルツハイマー型認知症の初期からみられやすい症状ですが、必ずしも病的でない場合もあります。

③失語・失認・失行

今までできていたことができなくなることを言います。
失語は言語に関連した症状で、話すことができない、相手の言ったことが理解できない、文字を書けない、読めないなどがあります。
失認は視覚・聴覚・触覚などに異常がないにも関わらず、見えるもの、聞こえるもの、触るものを正確に認識できないことです。
失行は麻痺がないのに目的の運動ができないことで、リモコンの使い方が分からない、着替えることができないなどがあります。

④実行機能障害(遂行機能障害)

複雑なことを計画し、順序だてて行い、上手くいっているかどうかを判断し、時に中止できる能力のことを実行機能といいます。
複数のことを同時に行ったり、予想外の出来事に臨機応変に対応したりするには、多様な脳機能を組み合わせる高度な認知機能が必要で、主に前頭葉が働いていると考えられています。

周辺症状(行動・心理症状)

①幻覚・妄想

現実には見えないもの、聞こえないものを見たり、聞いたりする症状です。
レビー小体型認知症では、現実にいない人を家の中で見るなどの幻視を訴えることがあります。
妄想は思い込みに基づく誤った確信で、訂正困難なものです。
財布を盗まれるといった物盗られ妄想や、配偶者が浮気をしている、見捨てられてしまうといった妄想があり、家族・介護者との関係を悪化させる原因ともなります。

②不安・抑うつ

自分が病気である、以前とは違うことをある程度自覚することで、漠然とした不安感や気分の落ち込みが見られることがあります。
なお、老年期のうつ病は仮面認知症とも言われ、一見認知症のように見えますが認知機能が保たれている場合があり、適切に診断・治療する必要があります。

③興奮・暴言・暴力行為

気持ちが高ぶり、自分で制御できなくなることで、他人に対して攻撃的になります。
大声で叫ぶ、罵る、叩く、噛むなどの暴言や暴力行為を働くこともあります。
自分の思い通りにいかない、自尊心が傷つけられたと感じた場合にみられることがあります。

④徘徊

徘徊は絶えず歩き回ることですが、特に夕方になると「そろそろ自宅に帰ります」と言って外に出ようとすることがあり、転倒・事故などの原因になります。

⑤せん妄

せん妄は意識障害の一つで、認知症のない方でも入院などの急激な環境変化や、身体ストレスにより起こることがあります。
認知症の方では脱水・便秘・感染症の合併や薬剤の変更など些細な事が引き金になって、注意力、記憶、思考、感情などが障害されます。
せん妄では誘因を取り除き、治療することで元の状態に戻ることが期待できます。

軽度認知障害

日常生活にさまざまな支障を認めるのが認知症ですが、そこまで至らず認知症ではないが正常でもない状態を軽度認知障害と呼びます。
軽い認知機能の低下は見られますが、日常生活は維持されていて支障がほとんどない状態です。
軽度認知障害は長期に渡り変化しない場合もあれば、認知症に移行することもあります。
また、近年では認知症となる前の軽度認知障害の段階で治療することが有効であるとの報告もなされていて、早期診断の重要性が増しています。

認知症の原因となる疾患

認知症の原因となる疾患は非常に多いですが、日本ではアルツハイマー型認知症が60〜70%を占め最も多く、その次に脳血管性認知症が約20%と続きます。
以下に代表的な疾患を示しますが、それ以外に甲状腺機能低下症、ビタミンB1/B12欠乏症、梅毒、正常圧水頭症、慢性硬膜下血種などは治療可能な認知症と言われており、それらを適切に診断・治療することが必要です。

・アルツハイマー型認知症

主な症状は記憶障害で、忘れっぽい、同じことを何回も聞くなどで気づかれます。
特に近時記憶が障害され、過去の出来事は初期では覚えていますが、進行するとあったはずの出来事をそっくりそのまま忘れてしまうこともあります(エピソード記憶の障害)。

また、日付が分からない、家の近所で迷子になるなど、時間や場所の見当識障害も初期から見られます。
その他言語や行為の障害、物事を計画・予測し順序だてて遂行する能力も障害されます。
一方で礼節や感情は保たれ、穏やかでにこにこしている場合が多いですが、病状が進むと物盗られ妄想や徘徊、介護への抵抗などの周辺症状も出現します。
なお一般的には65歳以上で発症しますが、稀ながら65歳未満の若年性もあり、発症年齢が若いほど進行が早い傾向があります。

・脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血などの脳卒中に関連して起こる認知症のことです。
脳卒中の代表的な症状としては半身麻痺呂律不良などで、認知症とは直接結びつかないように思われるかもしれませんが、脳血管性認知症の場合、微小な病変が多発することによって認知機能の低下を示します。
また、単一の病変であっても、認知機能に重要な働きをする部位が障害された場合も認知症となります。
経過としては脳卒中発作のたびに症状が階段状に悪化することがあります。
また、呂律不良、歩行障害、尿失禁、言語障害、自発性の低下など、障害された脳の部位によってさまざまな症状が認められます。

・レビー小体型認知症

進行性の記憶障害や幻視に加え、パーキンソン病と同様の運動機能障害を認める疾患です。患者さんの脳内にはパーキンソン病と同じレビー小体と呼ばれる構造物を多数認め、両疾患は区別が難しい類縁疾患と考えられています。
特徴的な症状である幻視では、いないはずの人物・小動物が見え、「子どもが座ってこちらを見ている」「大勢の人が部屋の中にいる」などと訴えます。
また、認知機能の変動が見られ、急激な意識障害をきたすこともあります。
他にパーキンソン病と類似の運動障害として、動きがゆっくりになる寡動や、筋固縮などがみられ、転倒の原因にもなります。
また、レム睡眠期の行動障害自律神経障害などが見られる点もパーキンソン病と同様です。

・前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)

前頭葉や側頭葉の神経細胞が脱落し、機能が低下する認知症で、65歳以前での発症が多いです。
礼儀や社会常識から外れるような行動を起こし、万引きなどの反社会的な行為に及ぶこともありますが、本人には悪びれる様子はありません。
自発性が低下し、何事にも無関心になったり、感情の起伏が少なくなったりするなどの性格変化をきたします。
また、毎日同じコースを散歩したり、同じ料理を作るような常同行動も伴います。

認知症の予防

認知症は急に発症するわけではなく、脳内での変化はかなり前からゆっくり始まっていると考えられています。
日頃の生活習慣を見直し、規則正しい生活、バランスの良い食事適度な運動で、認知症の発生率を抑えることができるといった多くの報告があります。

・バランスの良い食生活

栄養を考えてバランスの良い食事を心がけましょう。
糖尿病や高血圧は脳梗塞の危険因子なので、当然脳血管性認知症の発症リスクを高めますが、アルツハイマー型認知症のリスクも高めることがわかっています。

また、アメリカで提唱されているマインド食地中海料理と高血圧予防食を組み合わせた食事で、アルツハイマー型認知症のリスクを低下させると言われています。
マインド食では魚や鶏肉、玄米などの全粒粉、野菜、豆、ナッツ、オリーブオイルなどを多めに、アルコールはグラス2杯までのワインで取り、避けるべきものとして赤み肉、バター、チーズ、ファストフード、お菓子をあげています。

・適度な運動

1日30分程度のウォーキング、自転車、水泳、ガーデニングなどを体の負担にならないよう、楽しみながら続けることが大切です。

・頭を使って楽しむ

パズルクロスワードトランプなどのゲーム、編み物など指先を使った趣味、読書、美術館巡りのような知的活動で楽しみながら頭を使うことが大切です。

・喫煙、肥満

中年期以降の肥満は認知症の発生リスクを高めるため、摂取カロリーには注意が必要です。
喫煙習慣も認知症発生のリスクになるため、禁煙がすすめられます。

認知症へのアプローチ

物忘れが気になる場合、まずは病的なものか、正常な加齢性変化によるものかを判断します。
また、せん妄やうつ病、妄想性障害などの精神疾患は一見認知症と似ているため、区別する必要があります。
他にも、認知症の診断には至らない軽度認知障害でも将来的に認知症を発症することがあるので、その場合は慎重に経過観察をする必要があります。

・認知症の検査・診断

甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症、慢性硬膜下血腫などは治療可能な認知症と言われています。
まずはこれらを血液検査画像検査で適切に診断する必要があります。
アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症など脳疾患が原因の認知症を疑った場合は症状、経過を問診し、神経身体診察を行い、より精密な検査として神経心理検査で認知機能の評価を行います。
その後、脳画像検査で脳の障害部位を推定します。

神経心理検査ではHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、MMSE(ミニメンタルステート検査)、MoCA-Jが代表的ですが、より詳細に記憶、注意機能、言語、前頭葉機能を評価する場合もあります。
一方画像検査としてはCT、MRIで脳の形態・萎縮を評価したり、脳血流SPECTで疾患に特徴的な脳血流低下部位を検出することができます。
またアミロイドPET検査は保険適応外ですが、アルツハイマー型認知症で脳内に蓄積するアミロイドβを早期から発見することが可能です。

・認知症の治療

認知症との診断に至った場合は主に内服薬での治療になりますが、残念ながら現在根治につながる薬剤は開発されていません。
ただし、抗認知症薬により一部の認知機能が改善し、長期に維持されることが確認されています。
一方で介護者にとって大きな負担になるのが、周辺症状といわれる行動・心理症状で、そちらに対してはまずは環境調整などの非薬物療法を試みた後に、必要に応じて内服薬を処方します。

薬物療法以外にリハビリを行い、脳の活性化や残存能力の維持を目指す試みもあります。
認知症は長期にケアが必要な疾患であり、さまざまな介護・福祉サービスを利用しながら、本人だけでなく家族にとっても住みやすい環境を整備する必要があります。

・認知症の今後

2021年6月にアメリカでアルツハイマー型認知症の新規治療薬である「アデュカヌマブ」が承認されました。
今までの抗認知症薬とは異なる作用を持つ薬で、今後の使用成績が待たれます。
このように認知症の治療は日々進歩し、より正確・早期に診断し治療開始することで、更なる効果が期待されています。

現在のところ日本において認知症患者は増加しており、認知症とともに生きる生」と認知症発症・進行の「予防」が重視されるようになっています。
一方で欧米では認知症の発生率が減少しているとの報告が複数あります。その理由はまだわかっていませんが、生活習慣の改善、喫煙率の低下、教育レベルの上昇が考えられており、日本の認知症発生率が今後同様の傾向を示すことが期待されます。

また、介護・福祉サービスも利用しながら、本人らしく生活できるような環境を整えます。

提携している医療機関

  • 岐阜大学医学部附属病院
  • 岐阜県総合医療センター
  • 岐阜市民病院
  • 朝日大学病院
  • 岐阜赤十字病院
  • 岐阜ハートセンター
  • 長良医療センター
  • 岐阜清流病院
  • 岐北厚生病院
  • 岐阜病院

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